競艇では、スタート時のコース取りは、ルールの範囲内で自由に行って良いことになっています。
しかし実際のところは、ほとんどのレースが1号艇が1コース、2号艇が2コース……という具合に、「艇番順」のコースになることは、ご承知の通りです。
「艇番順」に並んだ場合、1号艇〜3号艇は早めにコースに入り「スロー」、4号艇〜6号艇は艇を後方に下げて「ダッシュ」という形になることが多くなります。
※この場合、4号艇がカドと呼ばれる「まくりを決める一番手の位置」と言われたりします。
しかし、状況によっては、1号艇〜6号艇の全てが「スロー」となる展開もあり、これを「オールスロー」と呼びます。
めったに見られない展開ですが、どういう時にこのような展開になるのでしょうか!?
この記事では、オールスローという言葉の意味、「前づけ」との関係、「イン屋」として「前づけ」をよく行う選手などを紹介します!
「オールスロー」と「前づけ」
「オールスロー」の展開になる原因は、ずばり、そのレースで「前づけ」を行った選手がいることです。
「前づけ」とは、「待機行動でコース取りの攻防の際、外枠の艇が大きく回り込んでほかの艇の前につけ、インコースを取ろうとする戦法」(BOATRACE公式)です。
ある選手が6号艇に割り当てられたものの、「どうしても1コースに入りたい」と思った場合、この「前づけ」という戦法を使うことがあります。
「前づけ」をすると、早めにインコースに入るため、待機時間中に流されてスタートラインまでの距離が短くなり、スタートが難しくなるという欠点がありますが、「それを覚悟してでもインが欲しい」というわけですね。
一方、これを5号艇の選手の視点から見てみましょう。もし、6号艇が「前づけ」に行った場合、5号艇は繰り下がって6コースになってしまいます。どこの競艇場でも6コースは最も不利で、勝率は低くなります。
そのため、5号艇は「6コースだけは避けたい」と考えて、6号艇に一緒についていき、一緒に「前づけ」を行うという行動をしがちです。
このままだと、次は4号艇が6コースになってしまう訳ですが、4号艇も同じように考えて・・・という具合に、6号艇が「前づけ」に動くと、他のアウト艇も引っ張られることがあるわけです。
この場合、1号艇〜3号艇のイン3艇は、そうはさせるか!と、「前づけ」阻止のため早めに動きます。
ちなみに、競艇のスタートにおけるコースは、「艇の舳先をスタートラインに向けた瞬間」に決定されるため、とにかく早くコースに入って舳先を前に向けてしまおうとします。
そして、全艇が「早くコースを取って、舳先を前に向けよう」とした結果、全艇がスローという状況が発生してしまうのですね!これが「オールスロー」です。
この「オールスロー」は、強豪選手同士のビッグレースでの争いでよく発生します(一般戦の予選などでは、「前づけ」が行われても「まぁいいや」と動かない選手もいるため、めったに発生しません。)。
最近では、2021年5月のボートレースオールスターの準優戦(11R)が「オールスロー」となりました。
このレースでは、4号艇・5号艇が「前づけ」に動いたのですが、3号艇に阻止されてインには入れませんでした。6号艇は「前づけ」の予定はなかったようですが、他艇につられて動いた結果、スローに入ってしまい、結局「艇番順」の並びになりました。
「オールスロー」となった場合、全艇がスローなので、ダッシュが効きません。従って、まくりは不可能で、結果的に最もインにいる艇が逃げて勝つ展開になることがほとんどです。
一方、強豪選手同士のビッグレースで起こることが多いため、モーター差がほとんど無く、「うまく展開を読んで差した艇」か「展開に恵まれた艇」が2着に来ることが多いので、2着は読みにくいレースになりがちです。
それでは、このような「オールスロー」を引き起こす可能性がある、「前づけ」を行う選手についてみていきましょう。
「前づけ」を行う「イン屋」
「前づけ」という戦法はルール違反ではありませんが、他の選手やファンからは顰蹙を買うことが多いので、普通の選手はしません。するとしたら、「ここだけは絶対に勝ちたい」という特別なレースだけです。
一方で、選手の中には、「イン屋」と呼ばれる、インコース専門の選手がいます。
有名な「イン屋」として認識されている選手の場合、他の選手も見ているファンも、「この選手がアウトにいたら前づけしてくるだろうな」と予め分かっているので、それほど顰蹙を買うことはありません。
「イン屋」の選手が出場するレースでは、艇番通りの並びを想定してはいけません。大抵はスタート練習で前づけをしてアピールしてくれるので、それを参考に進入コースを予想しましょう。
なお、「前づけ」を行ったら必ずしも有利になるわけではなく、むしろスタートが難しくなる面もあるわけですから、実力が伴わなければ「イン屋」という看板を掲げても、あまり意味はありません。
「イン屋」の選手とは!?
現役選手では、西島義則選手が「イン屋」として有名で、「インの鬼」というあだ名をつけられているほどです。
また、今村暢孝選手も「イン屋」として有名で、今村選手の「前づけ」のすごさは、インの鬼・西島選手も一目置くくらいだそうです。
下の動画は、2022年の九州地区選でのレースですが、今村選手がスタート練習でとんでもないデモンストレーション的な「前づけ」を行っています(現在は待機行動のルールが厳しく、スタート練習でなければ違反)。なお、本番でも「前づけ」に行っています。
また「深イン真二選手」と呼ばれる「イン屋」、深川真二選手も有名です。
2015年のレースで、ただでさえ難しい江戸川競艇場にて、強い追い風にもかかわらず「前づけ」を敢行し、スタートライン45mで起こしを行ったという伝説をもっています(通常は100mを切ると不利)。
2015年5月18日のレースで深川真二選手が江戸川で前付け45mお越しにチャレンジしてました。
アナウンサーはわざとかあえてかSTの時『深イン真二』って言ってましたね🤣
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79 🇺🇦 NO WAR 🕊 (@osakaracing) March
24, 2022
なお、かつて「イン屋」の代表選手といえば鈴木幸夫選手でしたが、2023年に引退。その鈴木選手の弟子である赤岩善生選手が、師匠譲りの「イン屋」のレーススタイルを受け継いでいます!
「前づけ」で有名な選手は、記憶しておいた方がいいかもしれませんね!鈴木幸夫選手については、こちらの記事をご参照ください。