2023年5月から始まる審査期間から、SG・G1・G2におけるスタート事故(フライング、出遅れ)の罰則規定が強化されました。
分かりやすくいうと、ペナルティとなる選出除外期間が、それまでの2倍になったのです!
こちらの記事では、今回のスタート事故の罰則規定強化の内容・背景、選手への影響、注目すべきポイントについて解説します。
罰則規定強化の内容・背景
今回のスタート事故のペナルティ強化は、以下の通りです。
- SG優勝戦:2年間のSG選出除外(従来は1年間)+出場辞退期間消化後12ヵ月間のG1・G2選出除外
- SG準優勝戦・グランプリトライアル・順位決定戦:1年間のSG選出除外(従来は4節)+出場辞退期間消化後6ヵ月間のG1・G2選出除外
- G1・G2優勝戦:出場辞退期間消化後1年間のG1・G2選出除外(従来は半年)
- G1・G2準優勝戦:出場辞退期間消化後6か月間のG1・G2選出除外(従来は3か月)
強化の背景
今回のペナルティ強化の背景は、非常に単純な理由ですが、「フライング事故が多い」ことが原因です。
全国には24の競艇場があり、毎日どこかの競艇場でレースが行われていますが、2023年4月だけで実に117回ものフライング事故が発生しています(1日平均で3.9回)。
これが一般戦であれば売上高もそれほど多くはないのですが、グレードの高いレースであれば年間売上の大きな割合を占めるため、フライングをされて返還が起きると、主催者側には大損害となります。
例えば、2002年のグランドチャンピオンでは、優勝戦で2選手がフライングをして、24億円超が返還(フライング事故による返還最高記録)。主催者側は売上の7%が収入となるので、このレースでは1億7千万円あまりが損失となりました。
また、フライングではありませんが、2021年のグランプリの優勝戦では、1マークで4艇が転覆。3連式の舟券が全て不成立となった結果、発売額の96%にあたる41億円超が返還となり、主催者側に2億9千万円近い損害を与えています。
競艇場は、巨額の維持費がかかります。ですので、主催者側も、収入が維持費を上回ってくれないと赤字となってしまいます。競艇は、公営競技の中で唯一「返還」がある競技形式で、ファンにとってはありがたいですが、主催者側にとっては競艇場の存続に関わりかねないものでもあるのです。
地方競馬や競輪では観客数が減り、遂に維持費が収入を上回ってしまい赤字となり、廃止となった場が沢山あります。競艇場にとって、フライングによる収入減は死活問題なのです。
そういう意味では、主催者側がフライングの罰則強化を求めるのも当然かもしれません。
とはいえ、選手達も少しでも良いスタートを切って勝ちに行こうとしますので、フライングはどうしても起きてしまいます。そのため、「大きな売上が見込まれるSG・G1・G2の準優戦・優勝戦だけでも、罰則を強化して欲しい」という要望があったのだと思われます。
※なお、逆に無事故だった場合、そのレースに出走した選手へ手当が支給される「スタート無事故賞」も新設(金額はSG優勝戦で一人30万円など)
罰則強化の影響
では、今回のこの罰則強化は、選手にどのような影響を与えるでしょうか。
強化されるのはSG・G1・G2のレースだけなので、A級選手だけが影響を受けることになります。
準優戦・優勝戦は、選手にとっては絶対に勝ちたいレースです。が、何回もグレードレースを優勝して名声と賞金を得ているベテラン選手と、まだグレードレースの優勝経験がない選手とでは、勝利に対する必死さが異なります。
例えば、強化された罰則の適用第1号となってしまったのは、2023年5月のボートレースオールスター(SG)の準優戦でフライングをした下條雄太郎選手でした(下條選手はまだG2以上での優勝経験がありません)。
※下條選手の場合、グランドチャンピオン~来年のオールスターまで1年間のSG選出除外+フライング休み明け(8月)から半年後(来年2月)までG1・G2出走不可
今回の罰則強化は、SG・G1・G2での優勝経験が無い選手に、「勝ちに行きたいけど、ペナルティが怖すぎる」という板ばさみ状態を生んでしまい、大きな影響を与えると思われます。
逆に、グレードレースの準優戦・優勝戦でも自然体で走ることができるベテラン選手には、それほど影響は大きくないかもしれません。
いざ本番で、厳しいペナルティが頭をよぎり、「土壇場で抑えにいってしまった」というケースは、グレードレース優勝未経験の選手ほど出てきそうです。
「事故率」をチェックしよう
上で書いたような状況ではありますが、競艇選手である以上、やはり勝たなければ出世できません。
選手にもそれぞれ個性があり、厳しいフライングのペナルティを受けて「少し控えめになる選手」もいるでしょうが、「それでも思い切って行く選手」もいることでしょう。
そこで、優勝未経験の選手が「思い切って行くかどうか」を判断する材料として、「事故率」という指標が参考になるかもしれません。
事故率が0.7を超えると、通称「事故パン」と言い、来期は降格となってしまいます。
既に事故率が0.7に達している選手、もう少しで0.7に達してしまう選手は、いかに強気な性格でも事故率を下げるため安全運転せざるを得ず、活躍は望めません。そういった選手は、そもそも準優戦・優勝戦にあまり出て来られないと思われます。
一方、「もう1回フライングをしたら、事故率が0.5を超えてくる」くらいの選手は、「事故を怖がっていては勝てない」という強気の攻めが信条の選手だと思われますので、ペナルティを食らうリスクがあっても攻めてくる可能性が高いと言えます。
なお、事故率が「ゼロ」の選手は、元々「スタートだけで勝ちが決まる訳ではない」という考えで走っている選手が多いと思われます。こういった選手は、無理をして厳しいペナルティがあるスタートで攻めてくることはないでしょう。
とはいえ、SG・G1・G2の準優戦・優勝戦では、スタートがコンマ0.1台は当たり前ですので、その選手の平均STがこれを下回っている場合、勝ち目が薄いと判断して良いかもしれません。
まとめると、「事故率の数値が少々高いが、0.7まで達していない選手」は思い切って攻める可能性がある一方で、「グレードレース優勝未経験で、事故率ゼロの選手」は保守的になり、攻めてこない可能性が高いと言えます。
なお、ルールの変更は、変更直後は皆が気にしますが、時が経つにつれて当たり前になります。現在は変更直後ですが、しばらく経つと「やはり攻めなければ勝てない」と考え直す選手も出てきて、走り方も変わってくるかもしれません。
普段、出走表の「事故率」の欄はあまり気にしないと思いますが、今後はSG・G1・G2の準優戦・優勝戦では「事故率」も確認されることをお勧めします!